佐分利幸多の歌声を追って |
一般社団法人 全日本こどもの歌教育協会が、令和5(2023)年より、コンクールやその入賞者のコンサートを行い、その結果をホームページよりYouTube動画等で発信していることは、次第に知られるようになってきました。コンクールは、童謡・ミュージカル・ギター弾き語りなど、ジャンルを問わず、こどもたちが音楽を楽しむことを主眼としたコンクールです。なお、このコンクールは、年齢や独唱・重唱・合唱の部に分かれて、その総時間は、4時間を超えるものです。また、3才から中学生を対象とした"こどもの歌専門"のコンクールです。通して聴くのはかなりエネルギーを要するものですが、何人かの心に残る少年に出会いました。その中でも、特に関心を持ってその歌声を聴いたのは、岐阜県多治見市の佐分利幸多で、独唱としては、「生命の奇跡」を歌い、幸多と詩音【佐分利幸多(小学5年生)・中川詩音(小学4年生)】名義で出場したデュエットでも、「小さな木の実」「君が明日と呼ぶものを」を歌って、重唱・合唱部門で銀賞に輝きました。なお、二人は、多治見少年少女合唱団に所属しています。その結果を受けて、同年12月23日には、第1回全日本こどもの歌コンクール
クリスマス受賞者コンサートで、「オー ホリー ナイト」「赤鼻のトナカイ」の2曲を歌っています。
さらに、佐分利幸多は、令和5(2023)年に行われた第7回日本ジュニア声楽コンクール小学生部門で、「生命の奇跡(Song of Life)」と「小さな木の実」を歌って金賞なしの銅賞を獲得し、小学6年生になった翌年の令和6(2024)年の第8回日本ジュニア声楽コンクール小学生部門では、「ウォーキング オン ジ エアー(Walking in the air)」と「音楽はいつまでも」金賞を獲得しています。そこで、コンクール地区大会の動画を鑑賞しながら、その歌声の特色に迫りたいと思います。
「生命の奇跡(Song of Life)」「小さな木の実」
「生命の奇跡」(Song of Life)は、リベラによって創唱された曲で、日本では、NHKドラマ『マドンナ・ヴェルデ』の主題歌として使われたことで有名になりました。歌詞は、新しい命が生まれる瞬間から始まり、その命が成長し、音楽としてのハーモニーを見つける様子を描いています。曲は、全体的に、生命の美しさと神秘性を表現しています。また、かなり声楽的な技巧を要する曲でもあります。聴き手も、最初は技巧に耳を奪われがちな曲ですが、佐分利幸多は、この曲を独唱する際に、生命の美しさと神秘性を表現し、微妙な感情のニュアンスを伝えるための歌声の細かなコントロールと共に、フレーズの切れ目や盛り上がりを丁寧に演奏しています。
「小さな木の実」は、日本の少年がソロで歌った録音・録画がほとんどなく、それだけでも貴重なものです。この曲は、ビゼーの歌劇『美しきパースの娘』の中にあるテノールのアリア「セレナード」を原曲としていますが、この曲を永遠のものにしたのは、海野洋司作詞の父子の愛を描いた日本語の歌詞と、石川皓也による編曲のすばらしさにあると考えています。かつてこの曲は、小学校の音楽の教科書に載った時期もありましたが、最近は掲載されていないこともあって、子どもによって歌われることも次第に少なくなってきました。それが、佐分利幸多の情愛豊かな感性が、歌唱に反映することによって甦ってきたのではないかという気がします。
「ウォーキング オン ジ エアー(Walking in the air)」「音楽はいつまでも」
「ウォーキング・イン・ジ・エアー(Walking in the air)」は、アニメ「スノーマン」の主題曲で、雪だるまと少年が手を取り合って夜空を飛びまわりますが、翌朝目覚めたら雪だるまはとけて消えているという「スノーマン」の物語の雪だるまと、ボーイ・ソプラノというやがて消えていく声のはかなさを重ね合わせた歌になっています。最初からかなりもの悲しい歌声が聞こえてきて、歌全体が陰影のある哀愁に満ちた歌という印象があります。これは、昨年の歌にはあまり感じなかったことです。やがて雪だるまが解けていくことを暗示したような歌です。昨年と比べ低音部が充実してきた抒情性の高い歌になっています。
映画『リメンバー・ミー』では、主題歌の「リメンバー・ミー(Remember Me)」が有名で、各国の少年によってもよく歌われていますが、「音楽はいつまでも」は音楽を通じて人々の心をつなげるというテーマを描いています。あえてこの歌を選曲したところや、歌が後半盛り上がっていきつつ、家族や思い出について語るように歌い上げるところに、現在の声の持ち味に合った選曲をしたことを感じます。